第3章 約束
『……帰るぞ』
『…嫌だ……』
『帰るんだ』
『嫌だっ…! 痛い!離して、翔く…』
『智!』
普段ここまで声を荒らげない俺に
智がビクッと反応した
『帰ろう、智』
土砂降りの雨の中を歩き続けて
俺は智を自分の家に連れ帰った
二度と逃げ出さないように、掴んだ手首をしっかりと握ったまま
このマンションに智を連れてきたのは初めてだった
『…風邪、引くから』
初夏とはいえ、これだけ雨に降られれば身体が冷え切ってしまう
真っ直ぐに脱衣所に向かってシャツを脱がせようとすると、智は俺の手を跳ね除けた
『智…?』
『………あそこがどういう店だか知ってる…?
あそこで、何してたか…翔くん知らないでしょ
男の人のお客さんがメインなんだ
それがどういう事だかわかる…?』
何をしてたか、って
客層が男だからなんだって…?
『……お金、もらって、』
頭の中で警笛が鳴る
『……男の人と、』
『……やめろ』
『…僕っ…、』
『やめてくれ………!』
『……寝たんだよ、何度も…』
『智…』
『…僕が側に居て欲しいと思う人は
みんな僕から離れてく…
あそこなら僕を必要としてくれる人がいる
僕を愛してくれる人がいる…だから、』
“愛せないなら僕に構わないで”
そう言って智は
その場に蹲って、声を殺して泣いたんだ