第3章 約束
産まれた瞬間に母親を
そして、三年前に父親を失った智は
この世界に神様なんて居ないと打ちひしがれて
見ていられない程に荒んで
赤ん坊の頃から見ていた、真っ直ぐで一点の曇りもない瞳は
日を追う毎に輝きを失って行った
『………墓場まで持っていくつもりだから
智には…』
『…わかってます……』
17年前のあの日
智の生命と引き換えに失くしたものは
潤さんの奥さんと
智の双子の弟の、生命
『しょうくんはひとりっこ?』
『弟と妹がいるよ』
『おとうとかぁ…いいなぁ。
ぼくもおとうとがほしかったなぁ
ふたごだったらもっとよかったなぁ』
智は…心の何処かで感じていたんだろうか
本当は双子だったという事を
『兄貴じゃ不満か?』
『あにき?』
『お兄さんの事だよ』
『おにいさんなら、いいこにしてたらかみさまがプレゼントしてくれる?』
『それは難しいかな。
でも、お兄さんでもよければ俺がなってやるよ』
『しょうくんが、ぼくのおにいさんに?』
『あぁ』
『やったぁ!』
嬉しそうに笑って
俺の手をギュッと握ってきたっけな
それなのに
ニ年生になった頃だろうか
『ぼく、しょうくんの弟、やめる』
唇をギュッと噛んで
何かを決意したように俺に言ったんだ
『ぼくはしょうくんのことが好きだから。
好きな人ときょうだいにはなれないから』
その日から、俺が潤さんの家を訪ねる度に『しょうくんが好き』と言われ続けて
中学に上がる頃には正式に“告白”をされたんだ
『翔くんの事が好きです
僕と…付き合ってください…!』