第2章 二人の関係
「僕のお父さんが大学生の頃…翔くんの家庭教師をしてたんだって」
智さんの親父さん…潤さんは当時国立大の二回生で
翔さんに目をかけていて
翔さんもまた潤さんの事をとても慕っていたんだそうだ
「翔くんが大学に受かってからもメールのやり取りはしてて
時々会ったりもしてたんだって
ある時、お父さんが翔くんに大学を辞める事にした、ってメールを送ったんだ
会って話をしよう、って事になった日
お父さんは翔くんに彼女を紹介した
その彼女が、僕のお母さん。
その時お母さんのお腹の中には、既に僕がいたんだ ―――」
若い二人の
妊娠
大学中退
結婚
周りの大人達も友達も、酷く反対した
ただ一人、翔さんを除いては。
『先輩が選んだ道なら僕は応援します
僕は…僕だけは
お二人と、この子の味方です ――― 』
大学を辞めた智さんのお父さんは
小さな建設会社で働き始めた
殆ど雑用係みたいなモノだったらしいけど
我が子の誕生の為に頑張る姿は
翔さんの目には、大学に居た時よりも輝いて見えたそうだ
ひっそりと暮らし始めた若い二人の小さなアパートには
大学とアルバイトの間を縫って、必ず手土産を持って訪ねていた
新たな生命の誕生を迎えるその日も
出張先から飛んで帰って来た潤さんよりも先に
分娩室の前で祈るようにしてベンチに座り
“その瞬間”を見守ろうとしてくれていた
「僕が産まれた11月26日。
その日が…お母さんの命日なんだ」
どうして。
どうして神様はそんなにも残酷な運命を
この人達に課せたんだろうか