第10章 揺れる
「ハァッ...ハァッ...」
階段を一気に駆け登ったから少し息が上がって。
呼吸を整えて目の前にある立派なドアをノックした
中からの返事は無い。けど、押し下げたドアノブはカチャリと音を立てて開く
薄暗くなった部屋の一番奥の、社長さんが座るような立派なデスク
その席に、両肘を付いて組んだ手の上に額を乗せて項垂れる相葉さんの姿を見付けた
「どうした、平野。帰ったんじゃなかったのか」
目を閉じているんだろう、俺の姿は見えてないんだな
「...平野さんじゃないんだけど、」
「...カズくん、どうして..」
「どうして、って、話まだ終わってないし。
消えないでってどういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。
...俺の前から居なくならないで欲しい、って事」
「...その理由は?
それに、俺だけは、って」
「フッ...カズくん容赦ないね。何処から話せばいいかな...
でも...」
相葉さんが立ち上がり、俺に近付く
「全部聞いたら..カズくんはきっと俺を軽蔑する。
俺の前から消えて居なくなるよ」
あ、またあの瞳...
暗闇に影を落としたような真っ黒な瞳に
グッと息を飲んだ