第14章 「ありがとう」の代わりに*高尾*
約束の日、家にいても落ち着かなくて早めに到着したら、彼が私の姿を見つけて走ってきてくれた。
初めて見る私服姿は然り気無くおしゃれで、ファーの衿が付いた黒いコートにジーパンというカジュアルな服装。
「ごめんな、待った?」
「ううん、私が早く着いただけだから。部活お疲れ様。」
「疲れてねぇよ。気遣うなって。ほら、行こうぜ。」
隣に並んで歩くことなんて滅多にないからそれだけでも緊張するのに、お互い私服で街中を歩くなんて心臓がもたない。
周りから恋人同士に見られてたら嬉しい。
「高尾一回家帰ったの?そのままでも良かったのに…。」
「あのね、部活終わりってすっげー汗臭いの。折角出掛けるならちゃんとするって。」
「そっちこそ気遣わなくていいのに。」
「これは俺の気持ちの問題だからいーの。」
高尾と一緒にいると楽しくて、それだけじゃなくて自然に優しくしてくれるところに惹かれた。
お礼を求められたあの時、勇気出してよかった。
だって二人きりの時間を今日もらえたんだから。
映画館に着いて指定された座席に腰掛けると、もちろん普段の隣同士よりもずっと距離が近い。
いつまでも鼓動の加速は収まらなくて、変な態度とらないようにするのに必死だった。
「俺もこれ気になってたけど、タイミング逃してたんだよなー。に誘ってもらえて良かったわ。」
「それなら良かった。こんな形のお礼にして迷惑じゃなかったかなって思ってたから。」
「迷惑なんかじゃねぇよ。俺お前といると楽しいし。」
そのタイミングでふっと照明が落ちた。
友達としてでも「お前といると楽しい」なんて最高の誉め言葉。
もちろん私の顔は嬉しさと照れくささで真っ赤になってしまったけれど、ちょうど薄暗い館内が紛らわせてくれた。