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黒子のバスケ*Short Stories3

第9章 その出会いは必然か偶然/黄瀬*青峰


< あいつを好きになった日 / 青峰 >

最近気になるやつがいる。

学校に行く時、電車の一番前の車両に雨の日だけ現れる。

スラリとした手足に整った顔立ち、どこか周りと違うオーラを纏っているように見えた。

寒いからかダッフルコートを着ていて、どこの制服かはわからない。

本を読んでいたり、スマホをいじっていたり、居眠りしたり。

座席に座っていることが多いけど、この前はばあさんに席譲ってた。

見た目割と目立つのに、意外とちゃんとしてるんだな。

無意識にあいつの傍に立ってしまう。

今日も俺より先に席を立ち電車を降りようとしている。

その時、あいつの鞄に引っ掛かっていたものが外れたけど、あいつは気付かないで電車の外に行こうとする。

落としたパスケースらしきものを拾い、言葉よりも体が先に動いて、気付けば腕を掴み一緒に電車を降りていた。

「え…?」

いきなり男に腕掴まれて驚いているのか、口を開けてポカンとしている。

「これ、落ちたぞ。」

落としたものを渡すと、目を見開いてすぐに安堵の表情を浮かべた。

こいつ、すげぇころころ表情変わるな。面白ぇ。

「ありがとうございます!これ大事なもの全部入ってるから…助かりました!」

次に向けられた満面の笑みが妙に眩しくて、思わず目をそらした。

「…別に。」

「その制服…桐皇学園ですよね?すいません!電車降ろしてしまって…。」

今度は反省してますと顔に書いてあるかのように、眉を八の字にして項垂れている。

「あぁ?ちょっとぐらい遅れても構わねぇよ。」

「…それはそれでどうかと。」

「何だと?」

少し睨みをきかすと、彼女はクスクスと声をあげて笑った。

「嘘です!ごめんなさい!…あの、バスケ部の青峰さんですよね?」

「…何で名前知ってんだよ。」

「私バスケ部のマネージャーしてるので…。中学の時も雑誌で何度も見ました。」

「へぇ…。」

共通点が見つかるだけで、親近感を覚えてしまうのはどうしてだ?

もっと話したいと思った時、目の前で時計を見ると彼女の顔は一気に青ざめた。

「すいません!私、遅刻しそうなのでもう行きます!本当にありがとうございました!」

一つお辞儀をしてホームから走り去る姿を見送って、気付いた。

名前も知らないあいつにまた会いたい。

今日、俺はあいつを好きになった。
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