第9章 その出会いは必然か偶然/黄瀬*青峰
< あいつを好きになった日 / 青峰 >
最近気になるやつがいる。
学校に行く時、電車の一番前の車両に雨の日だけ現れる。
スラリとした手足に整った顔立ち、どこか周りと違うオーラを纏っているように見えた。
寒いからかダッフルコートを着ていて、どこの制服かはわからない。
本を読んでいたり、スマホをいじっていたり、居眠りしたり。
座席に座っていることが多いけど、この前はばあさんに席譲ってた。
見た目割と目立つのに、意外とちゃんとしてるんだな。
無意識にあいつの傍に立ってしまう。
今日も俺より先に席を立ち電車を降りようとしている。
その時、あいつの鞄に引っ掛かっていたものが外れたけど、あいつは気付かないで電車の外に行こうとする。
落としたパスケースらしきものを拾い、言葉よりも体が先に動いて、気付けば腕を掴み一緒に電車を降りていた。
「え…?」
いきなり男に腕掴まれて驚いているのか、口を開けてポカンとしている。
「これ、落ちたぞ。」
落としたものを渡すと、目を見開いてすぐに安堵の表情を浮かべた。
こいつ、すげぇころころ表情変わるな。面白ぇ。
「ありがとうございます!これ大事なもの全部入ってるから…助かりました!」
次に向けられた満面の笑みが妙に眩しくて、思わず目をそらした。
「…別に。」
「その制服…桐皇学園ですよね?すいません!電車降ろしてしまって…。」
今度は反省してますと顔に書いてあるかのように、眉を八の字にして項垂れている。
「あぁ?ちょっとぐらい遅れても構わねぇよ。」
「…それはそれでどうかと。」
「何だと?」
少し睨みをきかすと、彼女はクスクスと声をあげて笑った。
「嘘です!ごめんなさい!…あの、バスケ部の青峰さんですよね?」
「…何で名前知ってんだよ。」
「私バスケ部のマネージャーしてるので…。中学の時も雑誌で何度も見ました。」
「へぇ…。」
共通点が見つかるだけで、親近感を覚えてしまうのはどうしてだ?
もっと話したいと思った時、目の前で時計を見ると彼女の顔は一気に青ざめた。
「すいません!私、遅刻しそうなのでもう行きます!本当にありがとうございました!」
一つお辞儀をしてホームから走り去る姿を見送って、気付いた。
名前も知らないあいつにまた会いたい。
今日、俺はあいつを好きになった。