第8章 甘いあなたの味*黒子*
戻ってきたテツくんは荒い呼吸を整えながら、その場で立ち尽くしていた。
「テツくん、お疲れ様。」
タオルとスポドリを手渡すと、テツくんのありがとうが聞こえてきた。
だけど、その表情はどこか固くてぎこちない笑顔。
私が好きな柔らかで暖かい笑顔じゃない。
「どうかした?具合悪くなっちゃった?」
「…いえ、何でもありませんよ。」
ふるふると首を横に振ると、テツくんは練習へと戻っていった。
絶対何か隠してる。
いつもと違うことくらい私にだってわかる。
どうして私に話してくれないんだろう。
頼ってくれればいいのにな…。
もやもやと思い悩んでいるうちに部活は終わって、先輩たちが一人また一人と体育館から出ていく。
テツくんが何だかそれに紛れて消えてしまいそうで、思わず呼び止めた。
「テツくん!」
私の声にテツくんは足を止めて振り向いた。
「…はい。」
「今日一緒に帰るよね?」
「…?勿論です。昇降口で待ってますね。」