第50章 眠り姫がくれた奇跡*高尾*
学校が始まり、部活も今年のWCに向けてより熱が入るようになってきた。
夏も終わり秋が深まっても、ちゃんの様子が変わることはなかった。
「ちゃん。」
慌ただしくて中々会いに来られなかったから、今日は久しぶりのお見舞い。
相変わらず穏やかな表情で眠りに落ちたまま。
「悪ぃな。WCの予選始まったから、中々来られなくなっちゃって。」
髪に指を通すと、定期的に洗髪されているお陰でさらりと滑らかな感触がした。
約1年髪の毛を切っていないから、随分と長くなっている。
「ちゃんと勝ってるから安心してな。」
来られる日が限られてきたから、いつ目を覚ましてもいいように、あのノートに思いを綴ることにした。
言葉を選び、何度も書いては消して、長くはないメッセージを完成させた時にはすっかり日が暮れていた。
「…そろそろ起きてくれねぇと、今年俺達が優勝する瞬間見れないぜ?」
いつも隣で支えてくれていた彼女と、一緒に最高の瞬間を味わいたい。
それは俺だけじゃなくて、チーム皆の願い。
形のいい唇にそっと口付けをし、病室を後にした。