第45章 6月3日*今吉*
ベンチに腰掛けるとすぐ、が紙袋から何やらガサガサと取り出した。
「翔ちゃん、お誕生日おめでとう!はい、これ。」
そう言って差し出された箱を受け取ると、胸がじわりと暖かくなって、さっきとは違う感覚に陥った。
「おおきに、。毎年すまんな。」
「恒例行事だもん。お祝いしない方が落ち着かないよ。」
開けてみると、シルバーの腕時計が光っていた。
ちょうど腕時計が壊れてしまって買いに行こうと思っていた。
「どう…かな?」
「…ワシ、腕時計欲しいって言うた?」
「ううん。でも、しばらく腕時計してなかったから失くしたか壊れたかなと思って。」
昔からの阿吽の呼吸と言うべきか。
痒い所に手が届く存在と言うか。
明確に言葉にしなくても大体相手のことがわかってしまう。
元々観察眼に優れているワシだからかもしれんけど。
だからこそ、気付いてしまったことがある。
「大事にするわ。…ところで、ワシもう一つから欲しいもんあんねんけど。」
「欲張りだなぁ。まぁ、折角の誕生日だしね。…何が欲しいの?」
真っ直ぐに見つめるその瞳がどんな色に変わるかわからんけど、言うてしまおう。
「ワシのこと好きって言うてくれへん?」