第44章 穏やかな昼下がり*黒子*
「僕が好きなことだと読書かバスケになってしまいますよ?」
「それでもいいけどね。外暖かいし、公園で読書とかいいかも。」
「…折角二人きりなのに話せないのは嫌です。」
ちょっとだけ眉を寄せる顔が何だか可愛いなと思いつつ、そんなふうに思ってくれていることがしみじみ幸せだなと感じる。
それにしても休みの日でもバスケのこと考えてしまうなんて、どれほどまでにバスケに夢中なんだろう。
でも普段柔らかくて優しい雰囲気のテツくんが、バスケの時は勇ましい表情に変わって魔法みたいなプレイをするギャップにときめいてしまった手前、自分以上に夢中だとしても仕方ないと思えてしまうのだ。
「テツくんは読書とバスケどっちが好きなの?」
ふと浮かんだ疑問を投げかけてみると、テツくんは視線を落として、うーんと考えこんだ。
「…困りましたね。どちらも僕にとっては無くてはならないものです。」
「どっちも大好きだもんね。ごめんね、変なこと聞いて。」
テツくんがあまりに真剣に悩むものだから、きりをつけるきっかけをあげた。
「一番ははっきりしているんですけどね。」
ポツリとそう呟いて、テツくんはバニラシェイクをちびちびと口にした。
バスケよりも読書よりも好きなことって何だろう?
テツくんをじっと見つめながら首を傾げていると、テツくんは目を細めて柔らかく微笑んだ。
「バスケや読書は何とか我慢ができますが、と一緒にいることは無くなることが想像できないんです。」
ほんの僅か心の中で期待していた漫画みたいな答えがまさか返ってくるなんて。
想ってくれていることを真っ直ぐに伝えてくれるテツくんの優しさに、私の心はふわっと暖かくなった。
「それは私も一緒だよ。」
お互い顔を見合わせ笑い合えるこの時間は宝物。
特別なことなんてしなくても、こうして他愛もない話をしているだけでも、優しい気持ちで満ちていく。
「結局どうしましょうか?」
「んー…まぁ歩きながら決めようか。」
こんな緩やかな関係になれたことが、幸せだから。