第40章 貴方だけの私*紫原*
監督のところへ向かう時、ふと後ろを振り返ると大きな敦が何だか小さく見えた。
その表情はどことなく寂しそうで、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
監督と練習メニューの打ち合わせをしながらも、脳裏にさっきの敦の姿が浮かんでくる。
「ぼけっとするな。…明日で合宿は終わりだぞ?」
「あ…すみません。」
監督はニヤリとからかうように笑みを浮かべて、私を眺めていた。
「そろそろお前を解放してやらないと、紫原が限界みたいだしな。」
「敦がですか?」
「あいつは独占欲強いだろ。…まぁ、後はあいつから聞きな。」
そう言うと、打ち合わせもキリがついていたので、監督は食堂から出て行った。
そろそろ私も寝る準備しようかな…。
「あれ、。監督と打ち合わせは終わったの?」
食堂に入ってきたのは、寝間着なのに何故かスタイリッシュな氷室先輩だった。
「はい、ついさっき。先輩まだ寝ないんですか?」
「喉が渇いたから、水をもらってから寝ようと思って。」
先輩はグラスに水を注いで、ぐっと飲み干した。
「毎日お疲れ様。いつも本当にありがとう。」
「そんな!私も楽しくて頑張れるので、こちらこそ皆さんにありがとうですよ。」
「そうか…。なら安心したよ。この調子でIHも頑張ろうな。」
はい、と言葉を返すのと同時に氷室先輩に頭をぽんぽんと撫でられた。
すると不意に後ろから身体を引き寄せられて、頭の上から声が聞こえてきた。
「室ちん、ちんに触んないで。」
「敦!?」
頭上を見上げればやっぱり敦で、私を守るように肩を掴んで自分の方へ寄せて、ぎっと氷室先輩を見つめている。
「…別に下心なんてないんだけどな。、あとは任せるよ。」
仕方ないな、と言わんばかりの溜息をついて、氷室先輩は食堂を後にした。