第39章 嘘つきは恋の始まり*黄瀬*
黄瀬くんのおかげでやっと解放されて、「ちょっとお茶でもどうスか?」なんて誘ってくれたので、中庭のベンチでジュース片手に休憩中。
幸い、今は部活を頑張る子たちしかいない時間帯になっていた。
黄瀬くんファンからの冷たい視線を感じなくて済む。
「嘘も方便だね。黄瀬くんありがとう。助かったよ。」
「いえいえ。っちすごい困ってたし、あれはないっスよ。」
あの時黄瀬くんが助けてくれなかったら、折れるしかなくて納得いかないまま付き合うことになっていたかもしれない。
すごく助かったけど、黄瀬くんの言葉がひっかかる。
「…あんなこと言って、変な噂流れたらどうするの?」
「俺は別に構わないっスよ。っちだし。」
「私が相手じゃ申し訳なさすぎるよ。」
そう。同じ部活じゃなければ決して関わることはないだろうな、と光に目を細めるようにして見ていた彼だ。
一般女子である私とはかけ離れている、そんな遠い存在。
近付きたいけど、近付けなかった。
よっぽど運がなかったから、神様が見かねてプレゼントしてくれた時間なのかもしれない。
じっと見つめていたら視線に気づかれてしまって、目が合った。
すると、へにゃりと顔を緩ませて笑う黄瀬くんの顔が見えた。
…こんな顔、初めて見るかも。
雑誌で見る顔でもない。
遠巻きに見ている時の顔でもない。
部活の時の顔でもない。
他愛もない会話をしていたら、知らないうちにさっきまでの重苦しい憂鬱な気分は晴れて、私も笑顔に変わっていた。