第39章 嘘つきは恋の始まり*黄瀬*
すると、黄瀬くんのポケットから携帯電話の着信音が鳴った。
「あ、ちょっとごめんね。もしもし…はい、えっ!今からっスか?…確かに今日オフっスけど……。」
どうやら急にお仕事が入ってしまったみたい。
…もうちょっと話していたかったな。
黄瀬くんと二人で部活以外の話をする時間なんてあまりなかったし、何より素直にこの時間を楽しいと思えたから。
電話を切ると、黄瀬くんは大きなため息を一つ吐いて、唇を尖らせた。
「…っち、ごめんっス。今から仕事入ったから、行かなくちゃ…。」
「いいよいいよ。黄瀬くんのおかげでもうすっかり元気になったから。…行ってらっしゃい。」
背中を押してあげたいのに、何故か言葉と表情が正反対になろうとする。
名残惜しい気持ちは全部隠しきれなかったみたいで、表情が変わったことに気付いて目線を落として俯いた。
すると私の視界にあった自分の手が、一回り大きな手に握られているのが見えた。
「…黄瀬くん?」
何事かと思って顔を上げると、また黄瀬くんは今まで見たことがないような表情をしていた。
口を真一文字にして、眉を寄せ、余裕がないように見えた。
「っち、嘘から出たまことってあるんスよ。」
黄瀬くんが言う「嘘」は、私を助けてくれた時に口にしたあの言葉。
それに気付いても黄瀬くんに言葉を返すことが出来ない私を見て、黄瀬くんはまた口を開いた。
「…さっき俺がっちとだったら付き合ってるって噂流れてもいいって言ったのも嘘じゃないっス。…っちのことが好きだから。」
一体今日はどうなっているんだろう。
あまり好きではない人、それから密かに憧れていた人と二人から告白されてしまうなんて。
これは夢?いや、違うよね。
正直急な展開すぎるし、この気持ちが黄瀬くんと同じかまだはっきりしていない。
だけど黄瀬くんが来てくれた時、そしてあの「嘘」をついた時、私は驚きながらも心のどこかで嬉しく思った。
黄瀬くんの隣にいたい。
それだけは確信できたから黄瀬くんの告白を受け入れると、ぱっと花が咲いたように笑った彼に抱きしめられた。
この温もりを心地いいと思うのだから、私の「憧れ」は絶対「好き」に変わる。
嘘つきは恋の始まり。