第29章 いてくれてありがとう*赤司*
普段は賑わう人気スポットの中庭も、休みの今日は貸切状態だった。
まだほんの少し肌寒いのもあるのかもしれないけど。
大きな木の下にあるベンチに腰掛け、春が近づいてきているような陽射しを身体いっぱい感じた。
お揃いのお弁当を征くんに手渡して、魔法瓶に詰め込んだ温かいお茶をコップに注いだ。
「大分暖かくなってきたね。桜が咲いたら皆でお花見に行きたいなぁ…。」
「皆で、でいいのかい?」
意地悪な笑みを浮かべてお茶に口をつける征くん。
結局いつも心の中は見透かされていて、素直にならざるをえない。
「…本当は征くんと二人がいい。」
「最初からそう言ってくれた方が嬉しいよ。」
その余裕綽々な様子が何となく悔しくてそっぽ向いていると、ひゅうっと冷たい風が肌を刺した。
上着練習の時に脱いで体育館に置いてきちゃったな…まぁ、いっか。
お弁当の箱を開けて食べる姿勢に入ろうとした時、肩に何かがかけられて、よく知っている香りがした。
「征くん…上着いいの?寒くない?」
肩にかけられていたのは、白地に水色の洛山バスケ部のジャージ。
袖のところに筆記体で征くんの名前が刺繍されている。
「構わないよ。君に風邪でも引かれたら敵わないからね。」
「…ありがとう。」
こういう大切にしてくれる振る舞いを自然にしてくれる優しさに、心がぽっと暖かくなる。
あまり料理は得意ではないけれど頑張って用意したお弁当を、征くんは文句一つ言わず食べてくれる。
出来が心配でおずおずと様子を窺えば、私の視線が痛いのか声をかける前にこちらを見て「心配しなくてもいい。美味しいよ。」と言ってくれる。
こんな穏やかな時間がいつまでも続けばいいのにな。
食べ終わったお弁当を片付けてお茶を啜っていると、征くんが視界から消えた。
その代わりに、足の腿の辺りにほんの少し重みと温もりを感じる。
目線を落とせば、所謂膝枕の姿勢で征くんが瞳を閉じて横になっていた。