第20章 あなた専属のパティシエール*紫原*
お菓子が大好きで、いつも何かしらお菓子を食べていて、自分でもよく作る敦。
何度か敦が作ったケーキやクッキーを食べたことあるけど、お店で売っているものと勘違いするくらい美味しかった。
去年のバレンタインはそんな腕前の彼に気が引けて、お店で買った美味しそうなチョコレートを贈った。
箱を受け取って敦が見せた嬉しいけれど微妙といった複雑な表情が今でも忘れられない。
去年のホワイトデーに、敦は手作りのお菓子を私にプレゼントしてくれた。
喜ぶ私に、敦は一つおねだりをした。
「ねー、ちん。次のバレンタインはちんが作ったチョコ欲しい。」
正直料理はあまりしないし、お菓子なんてほとんど作ったことがない。
それを知っていてわざわざお願いをしてくるということは、敦が強く望んでいるということだ。
私が手作りのお菓子をもらって嬉しかったように、敦にも喜んでもらいたい。
料理下手な私は何度も何度も失敗をして、どうにかお菓子を完成させた。
「あのね、敦みたいに上手に出来なかったんだけど…。」
そう言って箱を差し出すと、何故か敦はむくれている。
「今日はバレンタインでしょー?」
あ、そうか。
敦の気持ちに気付いてついついふっと口許を緩めてしまった。
隣に座る彼を真っ直ぐ見つめて、箱を差し出して大切な言葉を届けた。
「敦が好きだよ。」
すると、敦は頬を染めて嬉しそうに箱を受け取ってくれた。