第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
赤葦くんは、気遣いさんだ。
保健室に行く前に、手洗い場に連れていってくれて、手に着いた血を洗い流す時間をくれる。
ハンカチを忘れたと言ったら貸してくれたし。
「倒れた時、打ったりした?それとも、暑いから逆上せた?これから暑い季節になるんだから、熱中症には気を付けて。」
こんな心配までしてくれた。
もし、のぼせてるとしたら、赤葦くんに対してです。
これを言ったら、流石に引かれそうだから止めておく。
その幸せな時間が長続きする訳はなくて。
保健室に入ると、赤葦くんは先に教室に戻っていった。
鼻血の治療って基本的に鼻に詰め物をする。
そんな顔を見られたくないから、授業が始まってくれていて助かった。
鼻血が止まるまで数分だったけど、今から戻っても殆ど授業なんか受けられない。
この時間はサボると決めて、中々止まらないフリをした。
休み時間になると、すぐに教室に戻って赤葦くんの元に近寄る。
「赤葦くん、さっきは有難う。」
「別にいいよ。」
「ハンカチ、洗って返すね。」
「それも、別にいい。あげるよ。」
じゃあ、洗濯しないでとっておこう。
そう思った私は、紛れもなく変態だった。
幸いな事に顔には出なかったのか、赤葦くんの表情は通常運転で、不愉快そうな気配はない。
「さっきの授業、必要だったらノート貸すけど?」
しかも、嬉しい申し出までしてくれた。
頷きで返事をすると、差し出されるノート。
有り難く借り受けて、席に戻った。