第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
信じていないのが顔に出たのか、手首が掴まれて、体を引き寄せられる。
導かれたのは、赤葦くんの胸元で。
鼓動を伝えようとしているのだと分かりはしたのだけど…。
こんな風に抱き締められてる状態じゃ、自分の心臓の方が煩くって聞こえはしない。
「あ、あああ、赤葦、くんっ!」
このままじゃ、興奮で頭がどうかなってしまいそうだから、こっちは必死なのに。
「…そろそろ、帰ろうか。」
赤葦くんは、変わらず冷静で淡々とした声を落とした。
あっさりと私を解放して、先に歩き出してしまう。
すぐ、隣に並んで歩き始めたけど、会話は無し。
カレカノっぽいお喋りって、どんなものか分からないから、話し掛ける事が出来なかった。
無言が続くと、付き合う事になったの自体が、都合が良い夢を見ただけような気がしてきて。
実感する為に、せめて、手くらい繋ぎたい。
でも、自分から手を握る勇気が無くて、わざと手の甲を掠める程度に触れさせた。
赤葦くんが、私を確認するように見る。
「…手、繋いでいい?」
「なんで、わざわざ聞くの?」
「大鳥、手汗がどうとかって、嫌がるかと思って。」
言葉でまで確認が入って、返したのは疑問で。
理由が分かると、つい手のひらを確認した。