第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
赤葦くんが、一歩足を踏み出す。
私との距離が近くなる。
「言葉では、何とでも言えるよね。いざ、こうなったら答えられないくせに。」
迫ってくる声が怖くて、膝が震えてきた。
だけど、応えたい。
汗ばんだ手を握り締めて、顔を見上げる。
「…答えられるよ。」
赤葦くんに告白した事はあるけど、告白に返事をする側になるなんて、思ってもいなかった。
緊張で、膝どころか、声まで震えてきている。
「私…赤葦くんの事が、好きです。だから、宜しくお願いします。」
何とか最後まで言い切ると同時に、握手を求めるように手を差し出した。
迷わず、握られた手。
ちゃんと伝わってくれたのだと、安心した。
でも、その直後に手汗が酷かった事を思い出して、手を離す。
「握手のつもりじゃなかった?
それとも、触れてみたら、何か違うって感じでもした?」
「そうじゃなくてっ…あのっ、汗が…。」
行動が誤解を招いたみたいで、赤葦くんの眉間に若干の皺が寄った。
慌てて理由を説明すると、納得したように何回か頷いている。
「…俺も、似たような状態だから、気にしないでいいよ。」
そんな事を言っていても、微細な変化しかない表情からは、そう見えなかった。