第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
やっぱり緊張はしているらしく、湿っている。
手を繋ぐのは、恥ずかしい。
ポケットの中に隠そうとした手は、その途中で赤葦くんの手に捕まった。
「でも、俺は手を繋ぎたい。嫌なら、払って。」
こう言われたって、払える筈は無い。
大人しく手を預けたままにしていると、指先が絡められた。
頭の中は、赤葦くんの手の感触だとか、伝わってくる体温とかで一杯で。
結果、この先、家に着くまで無言。
マンションのエントランスの前で手が離れる。
流石に、最後まで無言は有り得ないと思った。
送ってくれて有難う、くらい言わないと。
「…あの。」
「大鳥、もう少し時間いい?」
言い掛けた声は遮られ、慌てて頷く。
「大鳥の事が好きです。俺と付き合って下さい。」
サラッと続けられたのは、紛れもない告白で、耳を疑ってしまった。
「あんな風に言っただけじゃ、俺が納得出来なかったから。」
ちゃんと説明もしてくれて、2回目の告白の意味を理解する。
「私も赤葦くんが好きです。宜しくお願いします。」
追い詰められてたような、さっきの状況とは違って、震えもせずに、滑るように答えられて。
やっと、赤葦くんの彼女になれたのだと、実感する事が出来たのでした。
case1救済‐end.‐