第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
もう一度聞きたい。
そんな意味もあった1つの音だったのに、赤葦くんも黙ってしまって。
下駄箱の前で、ただ見詰めあっていたけど。
「そこの2人、イチャイチャしてないで帰りなさい!下校時間だぞ!」
先生の声によって、強制終了させられた。
「…帰るよ。」
人に、こんな現場を見られたというのに、冷静な赤葦くんは、さっさと歩き出した。
私の鞄を持ったまま、である。
当然、追い掛けるしか無くなって、ワンテンポ遅れて歩き始める。
隣に並ぶと、私に合わせるように赤葦くんが歩調を緩めた。
気を遣ってくれたのは分かるのに、なんか気まずくて、お礼ですら言う事が出来ない。
「…さっきの。」
学校から、かなり離れた頃、無言の時間を壊す赤葦くんの声。
それだけで、心臓が大きく跳ねた。
「ごめん。言うつもり無かったのは、本当だったけど。
大鳥は真っ直ぐな人だから、告白くらいしとけって、言うと思って。」
確かに、言おうと思ってたけども。
その相手が私だっていうのが予想外過ぎて、頭がついて来てくれてない。
まだ信じられない気持ちもあるから、何も返せないでいる。
「返事はいらないよ。分かってるから。」
それでも、赤葦くんは一人で話し続けてた。
そりゃあ、元々は私から告白した経緯があるから、オーケーなのは分かるだろう。
だからって、それを言い切れるのは、かなり自信家だと思ったけど。
「だから、今日だけ送らせて。しつこくは、したくないから。」
彼が出している答えは、正解とは逆のものだった。