第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
見惚れている場合じゃない。
分かっているのに、目が離せない。
「大鳥?」
かなり、ぼーっとしているように見えたのか、顔の前で手が振られた。
それで正気を取り戻し、鞄を返して貰おうと紐を掴んだけど。
「これくらい持つから。帰ろうか。」
拒否の姿勢だと気付いていないみたいで、振り払われる。
先に歩き出されてしまっても、ついて行く事が出来なかった。
「どうかした?」
少し離れてから、赤葦くんが立ち止まる。
振り返った顔は、心底不思議そうだった。
何で私が動かないのか、全然分かってない。
彼女が出来たなら、他の女と2人きりで帰るなんて、勿論ダメだし。
出来てないにしても、好きな子が居るのに、誤解を招くような事は、しちゃいけない。
そもそも、ここ最近は会話すらしてなかった、友達なのかも分からなくなってきた私を送るとか、意味が分からない。
色々理由はあるけれど、私自身の気持ちとして、期待したくないって言うのが、一番重要だ。
好きな子相手に、恋愛相談なんかしないって、少し考えたら分かるけど。
放課後、2人きり。
私の理想に近い環境で、久々の会話。
期待しない方が、おかしい状況だった。