第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
渡されたプリントの問題を解き続ける。
本当に、なんで赤点なんか取ったんだろうと思えるくらい、今回の範囲は難しくは無かった。
ただ、先生がドSだったのか、問題の数が多くて、全てが終わった時には夕方を過ぎ、外が暗くなっている。
プリントを提出して、帰ろうと歩いている廊下には人一人いなかった。
辛うじて、窓の外に見える体育館とか、部室棟に明かりが灯っていて、人間の存在を感じ取れるけど。
この場には私しか歩いていなくて、足音ばかりが響いている。
ちょっとした、ホラーみたいな光景だった。
ビクビクしながら、やっとの事で着いた下駄箱で、靴を履き替えていると、後ろに気配を感じる。
怖くて、体が固まったけど。
「大鳥、補習は終わったの?」
聞こえてきた声は、知っている人のもので。
安心して硬直が解けた。
だけど、振り返る事は出来ない。
決して幸せには見えない顔をしているこの人…赤葦くんの顔を、正面から見たくない。
言葉を返しもせず、彼が去ってくれる事を願っていたのに。
「もう暗いから、送るよ。」
優しい言葉と、強引に私の鞄を奪う手。
荷物を取り返す為とはいえ、振り返ってしまって。
目が、合った。
その瞬間、赤葦くんが笑った気がする。
それは、本来なら、私に向けられるべきじゃない、嬉しそうな顔に見えた。