第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
春高の、東京代表決定戦。
ここで勝てば、梟谷の全国出場が決まる。
そんな大切な試合なのだから、会場前ではすでにピリピリした空気を醸し出している人達が居た。
片方のジャージに見覚えがある…と、いうか、梟谷のジャージだ。
赤葦くんも、当然そこに居るだろう。
仲直りするきっかけとして、頑張って、くらい伝えたくて、そこに近寄る。
「あ!来てくれたんですね。」
すぐに気付いてくれたのは、さくらちゃんで。
赤葦くんは、反応したように私を見たけど、一瞬で目を逸らした。
もしかして、無視された?
それだけで、胸が痛んで。
この場には、赤葦くんと同じ空間には居たくない。
「あ、えっと。私、用事あるから試合は見れないの。折角誘ってくれてたから、顔だけ出しに来たんだよね。」
咄嗟に嘘を吐いて、帰ろうと体を反転させた。
止められる前に走り出したけど、すぐ後ろから足音が聞こえて、腕を掴まれる。
私を掴む大きい手は、明らかに男性のものだった。
「…大鳥、あまり、さくらを困らせないでくれない?」
久々に、私に向けられた赤葦くんの声は、残酷にも程がある。
結局、赤葦くんの感情が、恋愛だろうが、家族愛だろうが、友愛だろうが…さくらちゃんの為なら動くという、現実を突き付けられた。