第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
連絡先は交換しているけど、わざわざ電話とかでまで私に相談してくる事は無いらしい。
休みに入ってから、早10日程。
全く連絡はない。
それはそれで、淋しいんだから困りものだ。
赤葦くんの声が聞きたい。
こっちから電話してみようか。
出なくて、折り返しも無かったら、夏休み中は会話すら出来ない事を受け入れよう。
画面に表示した赤葦くんの名前。
発信をタップする指先が震えていた。
スマホから聞こえるコール音。
何か怖くなってきたけど、掛けておいて、すぐに切るなんて出来ない。
1、2、とコール回数を数えて、気を紛らわせようとしていた。
やがて、音が途切れる。
かなり長く鳴らしていたから、留守電にでもなったかと安心したけど。
『…何?』
通話になっただけだった。
何を喋ろうかとか考えていなくて、声が出てこない。
『…用がないなら、切るよ。』
黙っていたのは数秒なのに、私の言葉を待つ気はないみたいだ。
「あ、えっと!そう!あの、赤葦くんの知り合いの話!色々聞いてたから、気になっちゃって!」
慌てて発したのは、本当は気になっていない、寧ろ知りたくすら無い事。
でも、私達の間柄で出来る話なんて、これくらいしかなかった。