第1章 救済【サンカク。‐case1‐】
沈黙が、数秒。
私にとっては、とても長く感じる。
だけど、赤葦くんにしてみたら、本当に何でもない時間だったみたいで。
「それだけ?悪いけど、本当に俺自身の事じゃないんだよ。知り合いに相談されたから、女子の意見を聞いてみたかっただけ。」
サラッと、誤魔化しに掛かってきた。
嘘だって分かってる。
じゃなきゃ、名前を出した時に睨む意味も無いし、少しの間だって黙る必要なんかない。
でも、友達で居たいなら、騙された顔をするしかない。
「そうなんだ?ごめんね、勘違いして。」
これで、話を切るのが良い筈だ。
後は、ノートを返す目的を果たしたんだから、自然な動きで席に戻ればいい。
「…大鳥。」
背を向けた時、後ろから引き留めるような声が掛かった。
「何?」
友達としての最善を尽くす為に、笑顔で振り返る。
「その、知り合いの事。また相談してもいい?」
聞こえてきたのは、胸を締め付けられるような言葉。
知り合いじゃなくて、赤葦くんの事だって分かってるんだから、本当なら聞きたい筈がないのに…。
騙されたフリを続けるのなら、拒否をする理由がなくて。
「女子の意見が必要なら、いつでもドーゾ。」
努めて、明るく。
笑いながら頷いて返答した。