第5章 縁は異なもの味なもの
ふわりと温かい手が私の頭の上に乗せられる。
「大丈夫。千花は逃げて来たんじゃない、会いに来たんだ。そうでしょ?」
弾かれたように顔を上げる私の頭をぎこちなく撫でながら、佐助がゆっくりとそう告げた。
私が抱えていた思いまで全て彼にはお見通しのようで、無表情な眼鏡の奥の瞳は優しかった。
政宗に会いたい思いが強くなる一方で、私は代わり映えのない日常から逃げ出したくて、彼を理由にしているだけなんじゃないかと葛藤していた。
素直に、ただ純粋に彼を求めている訳じゃなくて、自分勝手な都合のいい気持ちで彼に会いたいと思っていのだたら、真っ直ぐな彼に会う資格なんか無いんじゃないかって。
「君が自分で選んで、そしてあの人に選ばれた。だから迷う必要なんてない。さあ、立って」
佐助は立ち上り、私の頭を撫でていた手で今度は私を引っ張り立たせてくれる。クナイが慌てたように佐助の肩へと飛び乗る。
「さあ、行って。あの人が、政宗さんが待ってる」
そう言って佐助は私の後ろへまわると、背中をトンと押してくれた。その瞬間、不思議と迷いが消えてなくなっていく気がした。
「ありがとう佐助。私、行ってくる!」
そう言って、青い空のもと私は走り出した。
最後に見た手を振る佐助の顔は、とても優しそうに笑っていた。