第5章 縁は異なもの味なもの
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「一大事です!市中に、珍妙な格好をした女子がいる、との報告を受けました…!」
「ほう、面白い。して、珍妙とはどのように?」
「見たこともない、ひらひらとした薄衣を纏っていると聞いたが」
「なんと。昔話に伝え聞く、天女様でしょうか…?」
「馬鹿じゃないの…そんなの、いる訳ない。異国から来た奴とか、そんな所じゃないの」
「何にしろ、怪しい者には違いない…もうじきに、日も暮れます」
「まぁ、待てよ。俺に心当たりがある…ひとまず、任せてくれないか」
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とぼとぼと、疲弊した身体を無理やり進め、夕日に向かい川沿いを歩く。
日が高い頃に駆け出した筈だったのに、気付けばすっかり日暮れている。
じりじりと痛む足が、今私を取り巻いているのが夢ではなく現実だと教えてくれる。
(そうそう、全てがうまく行くはず無いんだよね)
また、そう思い知られるけれど、私は俯くことはない。
だからこそ出会えた時に嬉しくて仕方が無いのだと、もう分かっているんだもの…
ふわり、と背後から風が吹き、ざわざわと川原の背の高い草が揺れる。
そして視界の開けた向こうに、夢にまで思い描いた、見間違えようのない後ろ姿――
疲れきっていたはずの脚は、独りでに動き出す。
呼んでもいないのに、彼はタイミング良く振り返る。
私が居るのを、わかっていたような優しい笑顔で。
まるで、運命みたい――
そんな、普段の私らしくない事を考えてしまうけれど。
ここにいる時点で、今まで縛られていた常識なんて、もう関係ないんだ…!
「千花」
耳に染みるような、低い声で名前を呼ばれ、じわじわと視界はぼやけて行く。
縺れる足を後押しするように、また背中からの風が私を追い越して。
ふわりと彼の髪を靡き、夕日へと吹き抜けて行った――
おわり。