第5章 縁は異なもの味なもの
目が覚めて窓に目を向けると、カーテンの隙間から漏れる薄い光が夜明けを教えてくれていた。
「政宗、」
目……
自分の目元に触れてみる。
夢の中の彼はまだ子供だった。
こく、っと空気を飲み込んで、ベッドから抜け出る。
「今日もお仕事、頑張ろう」
1日頑張ったら、眠る前に香を焚こう。
彼に会える。
これさえあれば。
それから毎晩のように彼の夢を見た。夢を見るたびに彼は成長していて。
あまりに残酷な場面もあった、惨たらしいことも。やるせないことだって。
でも彼は、前を向いて生きていた。信念を持ち、けれど柔軟に、楽しいことが大好きで。その大きな背中を、透明な私にいつも見せてくれていた。
半月も経っただろうか、とうとう、柴舟は最後の一個になった。その晩は季節の変わり目の不安定な空模様で、雨がザーザー打ち付けるように降り、風が窓ガラスを揺らしていた。
雨に濡れて帰ってきた私は、湯気の立ちのぼるマグカップをベッドサイドに置いて、慣れた手つきでマッチを擦り、香に火を移す。
赤くなった香からゆらりとひとすじの煙が立ち上るのを確認して、ベッドサイドに置いたマグカップを手に取り口をつけた。
「あっつ!」
あまりの熱さに一瞬目を瞑ると、
「大丈夫?」
とすぐそばで声が聞こえた。この部屋には誰もいないはずなのに、なんてそんなことはもう問題ではなかったし、頭の中から消え去っていた。その声が誰のものか、どういうわけか知っている事も、不思議ともなんとも思わなかった。
小さくまばたきしながら、明るくて温かい日差しの中で私は目を開けた。
緑の葉っぱが茂った大きな木の根元に腰掛ける私は、
「佐助」
と無意識に、ごく当たり前のように名を呼んだのだった。