第5章 縁は異なもの味なもの
唇に触れたか触れないか、分からない感覚のまま瞼を開けると、そこに彼の姿はなく、薄暗い部屋の中に間接照明がぼんやりとした影を作っていた。
きっと夢のはずなのに、最後に見た彼の切なそうな顔と「待ってる」と耳元で小さく囁かれた声がリアルな感覚で残っている。
「なんなんだ・・・これ・・・」
涙がすっと頬を伝った。だからといってそれ以上溢れでてくるわけでも、悲しくも切なくもないはずなのに、ただ彼の顔と声と香りが離れなかった。
「この香り・・・」
部屋に溢れるこの香り。胸一杯に吸い込んでみる。これが彼、政宗の香りだったと気が付く。
佐助に言われて選んだ香り。だからあんな夢見たのかな。
ベットから体を起こし、自分で自分を抱き締める。全身を香りに包まれ、まるで彼に抱かれているような気がした。夢の中のことだけど、私に触れる彼の指先はひどく優しい気がした。
「あー・・・夢なのに。欲求不満かな私」
ポツリと呟くと、何処かで政宗が微笑んでいるような感じがした。
「夢なのにね」
もう一度呟いて立ち上がる。
今何時だろう?どれだけ眠っていたんだろう?
急に不安になり、私は部屋のドアノブに手をかけた。