第5章 縁は異なもの味なもの
すり寄ってきた猫の頭を撫でると
気持ち良さそうに目を細めて顎をあげる。
「猫さんだ」
不意に聞こえた彼の言葉に顔をあげると、眼鏡の鼻のところをくいっと上げている
「猫さん?」
「そう、その猫の名前」
「面白い名前ですね」
「友達の猫の名前と同じなんだ」
「すごいネーミングセンス……」
「んん、その調子。リラックスして。俺は君を導く。それには信頼関係が大切で、まずは敬語からカットだ」
「初対面でそれはちょっと難しいかと……それに、導くって何のことですか?私、何かしてもらおうと思ってきたわけじゃ……」
「俺は佐助。君の名を教えてくれるかな」
私の話など聞く耳を持っている様子もなく、佐助さんは質問を被せてくる。
「佐助さんですね。私、千花です」
「いい名だ。あ、ごめん。いい名だ、なんて古臭いこと言って。あの時代の感覚が抜けないんだ」
「あの時代?」
「俺の大好きな時代だよ」
そうして彼は徳川家康について語りだす。話ながら奥に引っ込んだかと思えばビーカーにコーヒーを淹れてチョコレート付きで作業台を兼ねたテーブルに置いてくれる。飲め、ってことかな。表情からは読み取れないけど彼の分も用意してあるってことは……やっぱり、私の分だな。
仕方なく席に着くと、猫さんが膝の上に乗っかって眠ってしまう。
これは長くなりそうだ。
ん、チョコレート、美味しい……
もう少し聞いていようかな。
急いで帰ることもない
美味しいチョコレートを知っている人に、悪い人はいないはずだ