第5章 縁は異なもの味なもの
寄り道したところで世界が劇的に変わるわけでもなく、昨日見た景色とが少し変わるだけのことだけど、まあ少しでも違うってことは昨日よりは幾分ましってことで良しとしよう。
妙な理屈をこねて、自分を納得させて昨日とは違う道を歩いて行く。時々ごくりと大きな音を立て喉を潤し、当てもなく意味もなくふらふらと歩いていると、目の前に黒猫が音もなく現れる。
「にゃー」
目が合うと挨拶するように一声鳴き、近づくのを待っているかのように座り込む。誘われるように近づき手を伸ばすが、スルリとかわされてしまう。逃げられたと思い目で追うと、少し進んだ先で座り込んでいる。
「遊びたいの?」
「にゃぉ」
答えるように鳴いたその声に気を良くした私は、小さく笑い黒猫との追いかけっこを楽しむことにした。
絶妙な距離感で逃げていく黒猫をいつしか夢中で追いかけていた。後少しでその柔らかそうな毛に触れられそうになった瞬間、黒猫は一軒の店の中へと消えていった。
「あぁ、残念」
そう呟いて見上げた店先には『眠り屋』と書かれた小さなプレートが揺れていた。