第1章 チェックメイトの前夜(徳川家康・こじさくコラボ)
その夜、家康は律儀に部屋へ来てくれた。それはいつも通りの家康で、何と無しに面倒臭そうな空気を醸している。まあ、気合い入れてこられた方が逆に驚くんだけど。そこへ、彼は部屋に入るなり一言、
「布団……」
二組敷かれた布団を見て、襖を後ろ手にすっと閉めた状態で固まっている。
「えっ、泊まるって言ってたから、一応……」
「寝にきたわけじゃない。あんたの不安を解消しに来ただけ」
確かにそういう名目でここへ来てくれたんだ。でなければ一つ返事で彼がお日様が沈んだ後に部屋へきてくれるはずがない。
「でもっ!」
ーその気持ちが嬉しかったから、お布団敷いてゆっくりしてもらおうかなって思っただけでー
「なに、千花」
「その……」
ぴしゃりと指摘されて反射的に言葉を継いだはいいけど、怖いから見にきて欲しかったのに寝かせたら意味がないと矛盾していることに気がついて。嬉しさにかまけて前が見えてなかった自分が情けなくて。最後まで言葉が続けられない私は、口をつぐむしかなかった。
「正体がわからないと眠れないんでしょ。目の下くすませてさ」
燭台の明かりだけじゃクマができてるなんてわかるはずないのに。昼間話をしたときに気がついて、それで一つ返事で付き合ってくれたんだ。
それを理解した私は部屋の角に腰をおろし刀を肩に立て掛けて襖に目を向けてしまう彼が、ピンチに駆けつけてくれる頼もしい白馬に乗った王子様のように見えて。
「……ありがとう」
ー心配してくれて。でもって、心配させてごめんねー
照れくさいけど、彼の気持ちに感謝を伝えた