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【イケメン戦国】友の会別邸(短編集)

第3章 ラブリーディストーションII(徳川家康)





そこでじゃあね、と、さっさと踵を返せたらまだ格好がついたかもしれない。
縫い止められたように動かない自分の足を、見つめて止まったほんの隙に。
家康は立ち上がると、私と向き合った。

見下ろす冷たい目に、思わずぞくり、と身震いがする…
そして彼は何も言わないまま、私の手首を強く掴み、歩き出した。



「ちょっ…、家康っ」


静かにジャズが流れる店内では、声を上げることも憚られる。
小走りになるほどのスピードで家康が歩くのに、そもそもついて行くのが精一杯だ。
出口に向かう内、前からやってきたボーイを家康は呼び止めた。


「一番奥の席なんだけど、急ぎで出ます。

上で泊まりだから、料金は部屋につけて欲しい。
番号は…」


らしくない言動に、驚きながら。
どさくさに紛れて手を振り解こうとしたけれど、そう簡単には行かず。
ボーイに話をつけたらしい家康がまた歩き出すと、まるで迎えるようにエレベーターのドアが開く。

家康はさっと私ごと身を滑り込ませると、苛立ちを隠しきれない荒っぽさで階数ボタンを押した。


「家康…」


咎めるような、はたまた乞い願うような。
そんな気持ちで名前を呼んでみるけれど、家康はこちらを見ようともしない。
恐怖からか、握られたままの手首の痛みからか…とうとうこらえ切れなくなった涙が一筋、頬を伝ったのを空いた手で拭う。

家康に見られてなくてよかった、なんて考えている間も、エレベーターはどんどんと上がっていき。
先程までいたバーよりも更に高い階で、漸く止まった。

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