第4章 種火
息巻いたはいいものの、結果は当たり前だが惨敗だった。焦凍に指一本すら触れられず、一方的に攻撃されて最早サンドバッグと化していた。
彼にとってはちょこまか動くだけの的に過ぎなかったかもしれないが、ダメージは無いにしろ体力という体力を削られてもうクタクタである。
「……大丈夫か?」
幾分かスッキリした声で焦凍が私に問いかけた。今の状態はというと、一歩も動けない私を彼が俵抱きにして部屋まで運んでくれているのだが、正直言って揺れが直接体に来るため逆に辛い。
「まぁ何とか……」
精一杯の強がりで呟いた言葉は弱々しく、これ以上何かを言えば却ってボロが出ると思い口を噤んだ。
「着いたぞ」
いつの間にか焦凍の肩の上で眠っていたらしく、彼の声で微睡みの中から引き摺り出される。こんなにも疲弊した状態であるのは彼のせいだと言っても過言では無いので、形だけのお礼を言って肩から降りようとしたが、私の腰を支えていた右腕に力が篭った。
訳が分からず目を白黒させていると、焦凍は私の部屋に入って真っ直ぐ浴室に向かった。一週間前の出来事を思い出して青ざめる私を他所に、焦凍は私を脱衣所へ降ろすとそのまま扉を閉めてしまった。
「お前、このまま返すとすぐ寝ちまうだろ。風邪ひくから先に風呂入れよ」
そう言い残してドアの前から焦凍の気配が消えた。どうやら彼形の気遣いだったようだ。変な所で優しくされて戸惑ったが、彼のストレス発散に付き合ったのだからこれくらい当たり前だ、と自分自身に言い聞かせてシャワーを浴びる。所々で筋肉が悲鳴をあげていたが、何とか全身を綺麗にした。
体はサッパリしても眠気は再び襲ってくる。もう髪を乾かさずに寝てしまおうと浴室のドアを開けると、ベッドに座ってスマホを弄っていた焦凍の視線が私に向いた。
途端にまた嫌な記憶を思い出して体が固まる。しかし、私の想像に反して、接近してきた焦凍は私の肩にかけたバスタオルを掴んで乱暴に髪を拭いてきた。
「いっ……」
「悪ぃ。力加減がよく分かんねぇ」
本日二度目の謝罪と共に、彼は指先に込めた力を緩め優しくタオルを動かす。どうしてこんなに甲斐甲斐しく世話を焼くのだろうと疑問に思いながらもされるがままに突っ立っていると、ある程度拭き終えた焦凍は脱衣場からドライヤーを持って来た。