第4章 種火
「座れ。乾かしてやるから」
彼の奇行に驚く暇も無くドレッサーの前に座らされる。ぎこちない手つきで髪を乾かし始めた焦凍は、時折眉を顰めながら変な体勢で四苦八苦していた。その姿が子育てに慣れていないお父さんのようで可笑しい。クスッと笑みを零した私に気付いた焦凍は、少しムッとしながら「何だ」と尋ねてきた。
「何でもないです」
笑いを堪えながら言うと、何処か腑に落ちない様子の焦凍は髪の毛との格闘を再開した。
無表情で真意の読めない人……初めて彼を見た時も、会った時もそう思った。しかし、その認識は少し改めなければいけないかもしれない。もしかしたら、自分の感情を表現するのが下手くそなだけで、ただ不器用な人なのでは?
さっきは反抗心しかなかったが、そんな風に思ってしまうくらいに彼は人間的で、やっぱり私のヒーローだった。
「終わったぞ」
「ありがとうございました」
今度は心を込めてお礼を言う。どうやら結構良い出来映えで満足したらしく、焦凍の機嫌は直っていた。
「さて、今度こそ寝よう」と思いベッドに向かった私だったが、自身の防衛心の甘さと捨てきれなかった憧れの思いに後悔する事になる。
「もう少し、付き合え」
床に就くべく上げた半身に覆いかぶさり、耳元で低く囁かれた。全身に鳥肌が立ったかと思うと、振りほどく間もなくベッドに組み敷かれ、両手を一纏めに固定される。
先程までの和やかな雰囲気は何処へやら、急に艶っぽくなった焦凍に驚愕していると、何の前触れもなく唇を奪われた。
「んっ……!」
決して開くまいと閉じた唇を舌でこじ開けられる。まさか自分がそんなに簡単に侵入を許すとは思ってもみなかったので困惑したが、さっきの戦闘の疲れがここまで来ていると悟り、抵抗も出来ない絶望的状況だと気付いた。
「ふぁ……はぁっ……」
口内で逃げ惑う舌を絡め取られ、焦凍の舌の感触に翻弄されていると、彼の空いた右手が私の脇腹をなぞった。普段余り味わう事の無い擽ったさに身が震える。そのまま上へと上って来た右手は私の胸をやわやわと揉み始めた。
もどかしい感触に下半身が疼く。太腿を擦り合わせて耐える私を尻目に唇が離れた。