第3章 変革
連れて来られたのは電気の部屋だった。私に与えられたものと間取りの変わらない空間は、上鳴電気という彼の個性を表している。……この時点で既に嫌な予感が脳裏を過ったが、そんな不審を打ち消す間もなく私の予感は的中した。
「じゃ、早速始めっから服脱げよ」
私に向き直った電気は高圧的な態度で見下ろしながらとんでもない事を命令する。直接的ではないもののその真意を読み取ってしまった私は、個性で目の前の男を張り倒して逃げ出す事を画策したが、少し前の出来事を彷彿とし思い留まる。
『果たして、私の最大出力を防いだ人物から逃げる事が可能なのか』
答えは否、だ。出久の時も簡単に腕を薙ぎ払われてしまった。しかもそれは、私のウィークポイント__掌からしか放水出来ない事を把握した上での防御。そんな輩から運よく隙を突いて逃げ出せたとしても、すぐに捕まる事は火を見るより明らかだ。
ここまで長考して、私は自身を両腕で抱き締めながら首を横に振って拒絶を示した。
しかし、またも何を勘違いしたのやら、電気は納得したかのように笑うと私を横抱きにした。水に濡れた衣服が冷たい。彼の行動が理解出来ず目を白黒させていると、彼は真っ直ぐに浴室へ向かった。
「寒いんだよな。風呂入ろうぜ」
まさかの自衛ジェスチャーを寒がっていると解釈した電気は、私の着ていた服をポンポン脱がして風呂場に放り投げた。
「そういや俺も濡れてたんだよなぁ、道理で寒い訳だわ」
独り言を呟いて電気も服を脱いでいく。あっという間の出来事からやっと我に返った私は急いで体を隠した。その行動にまたも「そんなに寒いのかよ」とか言っている電気は相当ズレていると思う。口には出さないが。
「てかそのまま此処でシた方が早くね?」
名案と言わんばかりのキラキラした目が此方を向く。電気によって後ろ手に閉められた浴室のドアの音がひどく大きく聞こえた。
「こ、来ないでくださっ…」
「いいじゃん、体は綺麗になるしあったまるしで一石二鳥じゃね?」
段々と隅に追いやられて逃げ場がなくなる。シャワーヘッドを手にした電気は私にそれを向けてきた。
「あ、でも気持ちよくなるし三鳥じゃん」
欲情した彼は笑った。