第3章 変革
結局出久は休養を取ると言って訓練場から出て行った。やはり苦しそうなのは変わらない彼の表情に、私は彼の本性を垣間見た気がしてならなかった。
此処にいる五人がどういう経緯でこうなったのかは皆目検討もつかないし、理解もできない、それでも、彼らの中にあるヒーローの精神は、まだ死んでいないことを願いたい。
「……よしっ、やるか!」
拳を握りしめて気合いを入れる。「何を?」と問われればそれまでだが、兎に角今は身体を動かしたかった。
私は体育会系では無いが、運動をする事で頭がスッキリするというセオリーは信じている。何も考えずに、無心で的に水を放出する時間が至福でもあった。
「広いなぁ〜……」
天井を仰ぎ見ながら数歩歩く。地下空間とは思えない程上にある天井には、体育館にある電気と同じものが規則的に並んでいた。
こんなに広い所で個性を使えるのは私にしてみれば夢みたいな話だ。試しに個性を発動してみると、私の放った水は水圧を上げて尾を引いていく。それが楽しくて仕方ない。気付けば、自分の個性を最大限に活用して訓練場を暴れ回っていた。
「お、いたい……」
ドゴォォォォォ
「た」と言い終わらぬ内に、凄い勢いの水がドアから顔を覗かせたチャージズマを襲う。慌てて放出をやめると、私の攻撃をモロにくらった彼はびしょ濡れでそこに立っていた。彼の隣では訓練場の唯一の入口であるドアがひしゃげている。
「す、すみません!ちょっと夢中になってて……」
濡れた服を搾っているチャージズマに近付いて頭を下げる。思ったよりもストレス発散でスッキリしたのか、自然に話しかける事が出来た。
「だいじょぶ、だいじょぶ!怪我とかねぇから」
笑いながらチャージズマは両手を挙げてみせた。そこで少しホッとしたが、それはつまり、彼が私の最大出力放水をいとも簡単に凌いだという事になる。ヒーローの端くれとプロヒーローとでは歴然の差がある事は理解していたが、これ程までに高い壁だとは思っていなかった。
「ちょっと一緒に来てほしいんだけど、まだ特訓すんの?」
「あ、いや……」
「じゃあさっさと行こーぜ」
どう切り返そうかと悩む暇も与えずに、チャージズマは私の腕を掴んで訓練場を後にした。