第3章 変革
出久に連れられてやって来た地下に、その巨大な白い空間はあった。これが訓練場らしい。
「それじゃあ、君の個性をもう一度見せてくれないかな?」
着くや否や懇願してきた出久に対して頷くと、彼は目尻を下げて悲しそうな顔をした。何かしただろうかと首を傾げる。訳が分からないという意思表示をする私に、彼は哀愁を漂わせて笑った。
「全然喋ってくれないし、折角教えた名前も呼んでくれないなって思って……」
教えてもらった当初に返事も聞かず口付けてきたのは何処のどいつだ、と密かに心の中で思う。しかし、どうやら不機嫌そうなオーラが漏れていたようで、出久はアワアワしながら謝ってきた。
「ごめん!何か気に障るようなこと言った……?」
本当に自覚していないのか、この人は。
「随分と勝手ですね。私は、貴方達と仲良くするつもりはありません」
思っていたよりもずっと冷たい声が出た。氷槍の如く放ったその言葉は私と出久の間に大きな溝を作る。少し調子に乗りすぎて相手を怒らせたか、と思ったが杞憂に終わった。
「そう……だよね。今の君には僕達って敵なんだ……」
また、だ。また、そうやって悲しそうな顔をする。泣きたいのは私の方なのに、被害者は私なのに。何で……貴方はそんなに悲しそうなんだ。
「分かってるんだ、分かってる。僕もそのつもりで君を連れて来たんだから」
私の方を向いてはいるが、私を見てはいない。自分自身に言い聞かせるように放った彼の言葉は空間に溶け込んでいった。光を失ったその瞳は、一体何を映しているのか。
「君の……」
間を置いて開いた口は、そこまで言って真一文字に固く結ばれた。続きが気になって彼を凝視していると、俯き加減だった彼の顔がすっと上がり私を見据える。
「君の、ヒーローでいたかったよ」
悲壮な表情とは裏腹に私の心を抉る残酷な言葉。今の私にとってはその表現が一番正しいだろう。そう思うのなら何故、裏切るような行動を取ったのか。
「だったら……!」
猛る気持ちが抑えられずに言葉となって口から飛び出る。その先を言ってしまったら……彼に思いの丈をぶつけてしまったら、後には戻れなくなりそうで怖かった。