第3章 変革
何かが炒められている音と、空腹のお腹を唸らすようないい匂いに包まれて目が覚める。LEDのライトが眩しいこの部屋はリビングのようだ。
「眠っている事が多いな……」と思いながら身体を起こす。同時にカウンターに挟まれたキッチンの方へ視線を遣ると、緑色のふわふわ頭が料理をしながら揺れていた。
「あ、起きた?」
私の視線に気付いた真ん丸な目がコチラを見る。もう何度目かという出久のその言葉を聞き、「私が目覚める時は決まってこの人がいるなぁ……」と彼の顔を見ながら考えていた。
「今お昼ご飯作ってるから」
フライパンに視線を戻した出久が鼻歌でも歌いそうな勢いで料理を再開する。チェック柄のエプロンなんて付けているその姿は最早主夫だった。
「…………」
あの時……出久と肌を重ねた時、私は無意識に本音を口走っていた。落胆、憤怒、嫌悪、全ての感情を織り交ぜたあの言葉は、彼の胸にどう響いただろうか。将また、響いてすらいないのだろうか。今は彼自身の本当の気持ちを……あの悲しげな顔をした理由を知りたい。
「出来たよ」
暫くして、料理皿をテーブルに並べた出久が話しかけてきた。あんな事の後とは言え、食欲を抑えられる程私も出来た人間じゃない。不本意ではあるが出久と向かい合うようにして座り、彼の作った炒飯を口に運んだ。
「美味しい……かな?」
不安そうに尋ねてくる出久はやっぱりあの時とは別物で、多少の恨みがあるから思いっ切り首を横に振って吐き出してやりたかったが、食べ物に罪はない上に頗る美味しかったので素直に頷いた。
「口に合って良かったよ」
花が咲いたような笑顔で出久も炒飯を頬張る。本当に彼は私を犯したあの出久なのだろうか、と疑いたくなるくらいに純粋なその笑顔は、私の悔恨を打ち消すには充分すぎた。
「この後は訓練場に行こうか」
黙々と炒飯を食べ続ける私を見て出久が思い出したように言った。訓練場……そう言えばそんな事を昨日話していた気がする。確か、あまり此処に缶詰め状態になっているのも良くないからと、出久達の所属しているヒーロー事務所が用意してくれた所だ。彼らの名目に惑わされてこんなに資金を投じて……本当に気の毒な事務所である。