第1章 羨望
「おいクソデク!!突っ走ってんじゃねぇ!!」
ヒーローデクのすぐ後ろで豪快に爆発音を鳴らしてやって来たのは爆心地だ。彼はまるで移動のついでと言うようにヴィランの顔面を爆破した後こちらへ突っ込んできた。……文字通り、突っ込んできた。
「ちょっとかっちゃん!危ないよ!!」
「あ゛ぁ?俺に指図してんじゃねぇ」
凡そヒーローとは思えない言葉を吐き捨てて舌打ちをするその姿は、ワイドショーで『実はヴィランかもしれない』と特集されてもおかしくない。そんな彼とは対照的に、ヒーローデクは爆心地がこちらへ突っ込んできた衝撃から私達を守ってくれる程優しく、ヒーロー感が強い。間近で見られるヒーローデクに感激していると、何故か爆心地に睨まれた。
「ちっ、一般人かよ」
「そ、そうだよ!だから危ない事はしないで……」
「だから指図すんなって言ってんだろーが!!デクの分際で!!」
「なっ?!そんな言い方酷いじゃないか!!」
私と女の子そっちのけで喧嘩を始めた二人の不仲説はどうやら本当らしい。ヒーローも人間なんだなあ、と呑気な事を考えていたら、先程の爆破では威力が足りなかったのかヴィランが再び起き上がった。
「いてぇよぉ……いてぇ……いてえええええええええ!!!!」
破綻者のように喚き散らしながら所構わず攻撃する姿に気圧される。ヒーロー志望とは言ったが、ここまで強大な絶対悪と遭遇した事は無い。ヒーローデクに「逃げて!!」と叫ばれたが、足が竦んで動けない。そんな私をヴィランは見逃さなかった。さっきまでとは桁違いのスピードで腕を掴まれたかと思うと、ヴィランはヒーロー達と距離をとって私を人質にした。
「コイツを殺されたくなけりゃぁ、そこから動くんじゃねぇぞ!!」
まさにテンプレなセリフで私の首に鋭いナイフのような爪を突き立てるヴィラン。爆心地はそんな事お構い無しで飛び込んでくるかと思っていたが、意外にも人質の事を考えてヴィランの出方を伺っていた。
殺されるかもしれない恐怖、確かにそれもあるが、何よりも牙が女の子ではなく私に向いて良かったとも思った。こうして冷静に状況判断が出来ているのは、恐怖のメーターが振り切ったからなのか。はたまた『三大ヒーロー』と謳われる内の二人が目の前にいるからなのか。