第1章 羨望
切羽詰まったような二人の顔。号泣する女の子。この最悪な状況を招いたのは私の油断のせいだ。ヒーロー志望が聞いて呆れる。
____どうにかしなければ。
そんな思いが湧き上がると同時に、私の身体から熱湯が噴射された。堪らず怯んだヴィランの隙を見て追い討ちとばかりに水圧を上げる。水に押されたヴィランの身体はビルの壁に激突しめり込んだ。
「はぁ……はぁ……」
「良くやったなモブ女ぁ!後は俺に任せろ!!」
恐怖から脱する為に膨大な勇気を要して息切れする私の横を爆速ターボで通り過ぎ、ヒール顔負けの残虐さで攻撃を繰り返す爆心地。彼の宣言通りヴィランは爆発で焼け焦げ、大人しくお縄についた。
「ゴメンね、僕達のせいで怖い思いをさせちゃって……」
ヴィランが連行された後、女の子も無事に母親の元へ帰って私の親の迎えを待っていた時、ヒーローデクがしょんぼりしながら謝罪してきた。『僕達』という言葉に反応したのか、爆心地が後ろで「俺のせいじゃねぇ!!」と怒っていたが、ヒーローデクは気にせず再度頭を下げてきた。
「本当にごめん!」
「いやいや、大丈夫です!ヒーローを目指す者として、とっても良い経験が出来ました」
「あ、そっか。仮免許持ってるって言ってたもんね。でもやっぱり……」
「本当に気にしないでください。助けて頂いてありがとうございました!」
未だ言い淀むヒーローデクに改めて向き直り、まだ言えていなかった助けてもらった事に対するお礼を言う。一瞬きょとんとした丸い目は、頬をうっすら赤く染めて花が咲いたように笑った。
爆心地にもお礼を言いたかったが、目も合わせてくれずそれは叶わなかった。いつかまた何処かで―同業者として―会えたのなら、またお礼を言おう。
密かな思いを胸に閉まって、夜の街を後にした。
この日、私は改めて『ヒーロー』の責務を知り、またその重さも理解した。『ヒーローになる』というのは簡単な事ではない。それに伴う立ち向かわなければならない『絶対悪への恐怖』……それは、例えどんなに強くなろうとも付き纏う感情だろう。いや、それを乗り越える事が出来る者こそ、『真のヒーロー』と呼ばれるのに相応しいのかもしれない。