第2章 夢幻
「君の母親には君がヴィランに狙われてるから僕らが保護するって名目で許可を得てる。必要な荷物も明日届く筈だから、今日はもう休んでいいよ」
緑谷は屍のようになったスミレをベッドに寝かせてから部屋を後にした。スミレに事の発端を説明した後、彼女は途端にその生気を失ったのだ。食事の事やこの施設の事を粗方説明していた緑谷の言葉は、最早彼女に届いていたのかすらも分からない。
少女の希望を奪った者達は、何食わぬ顔をしてリビングで寛ぎながらスミレについて話していた。
「いやー、合法的に女の子抱けるとか役得じゃね?」
声高らかに同意を求める上鳴。
「いや違法だろ!…まあ、事務所からの命令ではあるしなー」
ワインセラーがあるにも関わらず、缶ビールを煽る切島。
「態々調達しねぇで済むから、楽ではあるけどな」
首を左右に傾げて疲れた表情を見せる轟。
「発散できりゃ何でもいい」
二人がけのソファーに寝そべりながら雑誌を読む爆豪。
「早く……明日にならないかな」
目を細めて明後日を向く緑谷。
会話が噛み合っているのかいないのか、皆他には干渉せず思い思いの過ごし方で暇を潰していた。
そもそも何故スミレが此処に居るのか。それは、彼女が"とある理由"でヴィランに狙われているからだ。緑谷は彼女に「そういう名目で母親に許可を取った」と言ってはいたが、それは事実であり真実である。事務所からは正式に五人で警護するようにと言われており、この施設はその為に用意されたものだ。
では、何故彼女にここまでしてお金をかけるのか。それは、彼女にはそれだけの価値があるからだ。延いては、彼女の持つ秘められた力に緑谷達が所属する事務所も興味津々だという事。それを目覚めさせる為に豪勢な訓練場まで用意して。
しかし、彼らにとってそれは表向きの事情。真の目的は、『彼らの性欲発散』にある。彼らが今まで何度も行ってきた拉致強姦は、『記憶操作』の個性持ちが被害者女性の記憶を捻じ曲げる事によって事なきを得ていた。その対象は彼らがヒーロー活動で助けてきた人達なのだが、これが不思議と言うべきか皮肉と言うべきか、彼らの元の人気度の高さ故に嫌がる女性はいなかった。いや、彼らがそうならないような相手を選んでいたのだ。