第2章 夢幻
「何が……目的ですか」
緊張で言葉が喉に詰まる。今まで黙って事の成り行きを見ていた私が音を発したことによって、場の空気がピタリと止まった。自然と握り締めた服に皺がよる。何となく五人の眼差しが変わったような気がした。
「んー、そうだなぁ。何から話そうか…」
「まずは記憶の確認からだろ。お前、此処に来るまで何があったか思い出せるか?」
顎に手を当てて唸る出久の隣で、ショートが私に問うた。この質問を私に投げかけるという事は、少なからず私の記憶が無いことは知っているんだろう。こんな所で嘘を言っても仕方が無いので、私は素直に「分かりません」と応えた。
「やっぱアイツの力ってすげーんだな!こんなに綺麗さっぱり消せるなんてよ!」
「いつも助かってるからね」
烈怒頼雄斗の『アイツの力』・『消せる』という言葉から、彼らには更に仲間がいて、記憶に関する何らかの個性持ちである事は分かった。しかし、出久が言うように「いつも助かってる」とはどういう事なのか。
「今ので大方察したとは思うが、此処に来るまでのお前の記憶は意図的に消した。そいつの個性がない限り、お前の記憶が戻ることはない」
「この施設から出す気は一切ねぇ。逃げようとしたら俺が全力でぶっ殺す!」
「待て待て爆豪。ンな物騒な事しねーよ。怖がっちゃうだろ」
「だからモテねぇんだよ」と付け加えたチャージズマに対し、「モテるわっ!!」と豪語する爆心地。まあ、強ち間違ってはないのだが、大事なのはそこではない。再び戻る事は無いであろう記憶と、この場所から出られないという事実だ。嫌な予感が全身を駆け巡り、脳が警鐘を鳴らしている。「直ちに彼らから逃げ出せ」と。
「心配しないで。かっちゃんはあんな事言ってるけど、建物の中だったら自由に行動してもいいし、外部との連絡も取っていいから」
温和な微笑を携えて説明する出久の言葉に幾分かは救われたが、依然として隔離される事に変わりはない。未だ見えない彼らの目的に戸惑っていると、出久は「但し、」と言葉を続けた。
「君が万が一外の人間にこの場所の事や僕達の事を漏らしたり、逃亡を図ったりすれば、その時は、君の母親と弟からその存在を抹消する」
残酷な台詞を平然と言ってのけた出久は、"あの時の"出久と同じ顔をしていた。