第2章 夢幻
「何だテメェ!!死ねクソカスっっっ!!」
「落ち着けって爆豪!」
「何をそんなに怒ってんだよ」
開かれたドアの向こうには想像以上に壮絶な光景が広がっていた。目尻を釣り上げながら罵詈雑言を浴びせる爆心地を、赤髪と金髪に黒メッシュが入った二人の男……剛健ヒーロー烈怒頼雄斗とチャージズマが牽制している。
さて、私の予想は見事に的中してプロヒーローの中でもかなりガチな二人が登場した訳だが、これが街中で普通に会ったとかであれば私のテンションも違ったろうに。状況が状況なだけに全くもって嬉しくない。
「おぉ!緑谷、轟!マジでコイツどうにかしてくれよ!!」
「クソみたいな性格は学生の頃から変わってねーのな」
荒れ狂う爆心地の相手に疲れたのか、烈怒頼雄斗は切迫して助けを請い、チャージズマは溜息を吐いて肩を竦めた。
「ごめんね、切島君、上鳴君。遅くなっ…」
「やっとお出ましかよクソナードォ……」
出久の言葉を遮った爆心地は手をバチバチと爆破しながら緩慢な動きで近付いて来る。困ったと頭を搔く出久と相変わらず無表情なショートの後ろに隠れるようにして事の経緯を見守る私は、真っ直ぐに爆心地の顔を見ることが出来なかった。彼が鬼の形相をしているという事もあるが、何より『初めて肌を重ね合った相手』というのが大部分を占める要因だ。
何も乙女チックな感情がある訳では無いし憎たらしい事に変わりはないが、自身の醜態を晒してしまった事実は覆りようがない。それがそこはかとなく歯痒い。
「テメェ、俺を散々コケにした挙句部屋から追い出しやがって……ぶっ殺す!!」
どうやら私は出久に感謝しなければいけない事案が増えたようだ。あの後そのまま爆心地と居たなら私は今頃どうなっていただろうか、考えるだけでも恐ろしい。気絶した私を介抱してくれた出久には後々お礼を……と、ここまで思案して自分の置かれている状況を考慮に入れていなかった事に焦る。爆心地と出久は徒党を組んでおり、尚且つ彼も私に対して陵辱の限りを尽くしたのだ。お風呂場で全身をまさぐられた光景は記憶に新しい。とすれば、私は彼らに憤慨する事はあってもお礼を言うなんて誤った行動を取ってはいけない。
彼らがヒーローであるという事のせいで少し困惑したが、所詮犯罪は犯罪だ、と自己完結した時、爆心地が私の存在に気付いたのか目を見開いて固まった。