第2章 夢幻
二人の会話に耳を傾けつつも周囲を偵察する。一般的なマンションや戸建てとは違って何処か施設的な風貌の建物からは、生活感というものを感じなかった。通り過ぎる通路には幾つかドアが並んでいるが、どれも同じデザインで見分けるのは難しい。しかし、その内の何個かにはドアプレートが下がっていて、英語で部屋の名前が記されていたが、特に気になるものは無かった。
暫くして両開きの大きなドアの前に辿り着く。モダン調なドアの奥からは誰かが言い争っている声と、十中八九爆心地のものであろう爆破音が聞こえてきた。無言で出久の方を見たショートの顔は「ほらな」とでも言いたげだ。呆れたように首を振った出久は苦労人である事が窺えた。
「かっちゃんは何時になったら癇癪が収まるんだろう…」
「爆豪に限ってそれは無いだろ」
冷たく吐き捨てたショートは、「それよりそいつ、下ろしてやれ」と視線で私を指した。先程からの扱いが物と変わらない気がするのは私の気のせいだろうか。
「そうだね。立てる?」
「大丈夫、です……」
「敬語なんて使わなくて良いよ」と微笑む出久は、私の事をゆっくりと下ろしてくれた。床は少し固めの絨毯で、何も履いていないため質感が足の裏から直接伝わってくる。まだ爆心地から受けた痛みも少し残っていたが、歩けない程では無い。それでも、彼の事は生涯忘れる事は無いが(悪い意味で)。
「心配だなぁ。ブチ切れてるかっちゃんの前に連れてっても大丈夫かな?」
「上鳴と切島も中にいるんだから問題ねぇだろ」
たった二言の会話で私の心臓はまたも跳ね上がった。
まず、そんなデンジャラスな空間に個性の発動が出来ない私なんぞがノコノコと入ろうものなら、一瞬でお陀仏である。
更に、三大ヒーローの他にもまだ仲間がいたという事実発覚。本名だからか誰とまでは分からないが、この三人と行動を共にしているという事は、相当腕が立つ実力派ヒーローに違いない。
昂る気持ちを抑える私の額に冷や汗が滲んだ。彼らがヒーローだからか別段死の危険を感じることは無い。無いが、貞操を奪われてからというもの、何処か投げやりな自分がいるのも確かだった。しかし、今はそれ以上にこの身に何が起こっているのかが知りたい。
胸の前で拳を握る私を瞥見し、出久はドアレバーを引いて扉を開けた。