第2章 夢幻
コンコン
自分の将来に一抹の不安を感じながら出久を見つめていると、部屋の扉を叩くノック音が響いた。出久が返事をすると、扉を開けて中に入って来たのは……ショートだった。次から次へと登場する大物ヒーローに目を皿のようにして驚く私はさぞ間抜けなんだろう。
「おい、緑谷。もう揃ってるぞ」
「帰って来たんだね。どうだった?」
「問題ねぇ」
これで、現世代の三大ヒーローである爆心地、ヒーローデク、ショートが揃ってしまった訳だが、言葉尻から三人共仲間だという事が判明。最早絶望的状況である。
「……そいつ、どうしたんだ」
私を一瞥して出久に向き直ったショートは今の私の様態を聞いているが、私を心配している様子は露ほどもない。多少気になったから聞いてみただけ、そんな表現がぴったりな彼の淡白すぎる語調は『氷の王子』なんてキャッチフレーズが付けられる彼の人物像を浮かび上がらせた。
「少し逆上せちゃっただけだよ」
「……程々にな」
何を勘違いしたのか少し目を逸らしたショートは、恐らく私達が風呂場で情事に溺れていたとでも思っているんだろう。目を逸らしさえしなければ、ただ入浴時間の調整を誤っただけだと受け取った風に思える言葉だったのに。
「じゃあ行こうか」
何処に、という疑問も今やこの場においては愚問だろう。
「立てるのか」と声を掛けたショートに「僕が運ぶよ」と応えた出久は、再度私を横に抱く。驚きの連続でちょっとやそっとの事では動じなくなった私は、大人しく彼に運ばれていた。
「大人しいな」
道中、あまりの素直さに疑念を抱いたのか、ショートが私を見下ろして呟く。少しの事では動じない……とは言ったものの、実際は身体が怠くてそれ所ではない事の方が大人しさの大部分に起因している。
「まあかっちゃんが相手じゃ、ね」
苦々しく笑った出久は、私の身体を気遣ってか極力揺らさないように注意を払ってくた。やはり、関われば関わる程彼の本性が見えない。
「そう言えば爆豪がキレてたぞ。お前、何かしたのか」
「怒りたいのはこっちの方だよ、全く」
表情の読めないショートとは対象的に、出久は『ぷりぷり』という効果音が相応しい怒り方で頬を膨らませた。どうやら私が気絶している間に一悶着あったようだが、彼らの会話の内容からでは出久が何に対して怒っているのか察する事は出来なかった。