第2章 夢幻
「あ、あのっ……僕……その……」
暑さで朦朧とする意識の中、ヒーローデクが隣であたふたしている。
あの後、逆上せてヘロヘロになった私を彼が横抱きにしてベッドに運んでくれた。まあ、こんな状態になった一部の要因に彼も挙げられる訳だが。
「一度入っちゃうと周りが見えなくなるっていうか……そんな質で、だからって何も考えずにああいう事した訳でもなくて、えっと……」
一心不乱に言い訳を並べているヒーローデクは先程の妖艶な雰囲気など皆無だ。只でさえヴィランと戦う時の彼は逞しくて格好良いのに、あんな側面も持ち合わせているなんて世間にバレたら業界がお盛んになる事間違いなしだろう。
「もう大丈夫ですから、ヒーローデク」
正直言って私がこのような言葉を掛けること自体立場的に変なのだが、彼が持ち合わせているヒーロー的部分に心を救われた感も否めない。持って来た濡れタオルを私の額に乗せてくれたヒーローデクは、少しの安堵を滲ませて微笑んだ。
「……出久」
「え?」
「僕の本名、緑谷出久っていうんだ。出久って呼んでくれると嬉しいな」
頭を優しく撫でながら、返事も待たずに口付けられる。間髪入れずに侵入してきた彼の熱い舌は優しく、私の口内をたっぷりと味わうかのように動いた。
またも突然起こった予想外の事に思考停止する。追い打ちをかけるように畝る舌先が、ヒーローデクの……出久の体温が私を狂わせ、更なる快楽の先へと導いた。
「はぁっ、はぁ……」
「慣れてないんだね、当たり前だけど」
名残惜しそうに離れた唇は、飲み込みきれずに口の端から垂れる唾液を舐めとりてらてらと光っている。その瞳には色欲が宿っていた。
「なんっ…でっ……」
肩で息をする私をきょとんとした顔で見下ろすと、弧を描いた唇が動く。
「だって、キスしたいと思ったから」
全く答えになっていないその言葉は、この男が異常者だと仄めかすには十分過ぎるものだった。爆心地も爆心地でおかしかったが、出久はもっと別の意味で頭のネジがぶっ飛んでいる。
「ねぇ、スミレ」
いつ教えたんだという疑問は、爆心地の代替で出久がやって来た事実が抹消した。
「これからもよろしくね」
色々と言葉が足りないその一言でも、私が事を理解するには十分なもので、まだ心の何処かで否定したかった『爆心地とグル』という事実を無条件に突き付けた。