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【文豪ストレイドッグス】心の重力

第12章 叛乱の終焉に


二晩たっぷり寝込むと、関節が多少痛む程度の症状を残して、翠の熱は引いたようだった。その頃には中也も、鎮圧状況を事細かに説明していた。翠誘拐事件から、丸々三日経ったが、残党は蜘蛛の子を散らすように、逃げていくそうだ。扇動者を失い、あとは目的もない手足が残るのみか。

「私を殺そうとするとどうなるのか、格言的な噂が広まっていますよ」

尾崎に仇成すものは九尾の狐が喰い荒らす、冒頭が翠に成り代わったに過ぎないが。

「随分と偉くなったもンだな」

揶揄うような目で翠を見る中也に剝れて、翠は俯いた。本当は偉くなんてなりたくない。温い真綿の中で、誰かに甘えて守られていたいのに、自分で戦わなければ、自分の命すら危険に晒されるなど、なんて殺生な仕打ちか。

なのに、目の前の人は上機嫌に翠の頭を撫でた。子猫か何かの様にこねくり回されて、両手で頰を挟まれる。むにっと音が出そうな形に歪む翠の顔面を見つめて、中也は笑った。

人を潰れ饅頭にしておいて大変失礼な態度であるというのに、酷く優しい目をした中也に、翠の不平不満は喉の奥で空転して崩壊する。其の瞳は反則だと、翠は精神の影響し得る全ての神経が、全力で白旗を上げる感覚に溺れた。
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