第12章 叛乱の終焉に
狐憑きの尾崎。狐神は家を守り、仇成す者を喰い千切る。何が家を守り、何が害を成すのか、当主を受け継ぐと決めた時から、もう分かっていた。正妻派やその代表格だった叔母は、浪費を好み、権力を振りかざして、内部を腐敗させた。其れが仇であれば、例え一族の者でも牙を向けるのだ。
狐は尾崎の家の意志であり、其れを連れ歩く翠は家の意志其の物と成り果てた。此の先はもう血塗れの道だ。政教分離と決め込んで独立した兄は、もっと早くに同じ道に立っていた。翠の甘え切った思考は、簡単に見抜かれて然りるべきものだったのだろう。
「先代の神子だった叔母は、ご自分にも他人にも甘い人でした」
最近では壊れた蓄音機のように、翠への鬱憤を垂れ流すだけだったが、妾腹の兄妹を受け入れようとする暖かさもあったのだ。
「だから、道を踏み外したのでしょう」
硬い表情で翠を見詰める中也に笑ってみせるが、彼は難しい顔で眉間に皺を寄せるだけだった。今なら其れが中也の優しさだと分かる。翠を案じる彼の思い遣りを感じながら、できれば笑っていて欲しいと思う己の我儘さに、翠は苦笑した。