第11章 禿山の一夜
一歩、また一歩と彼女の元に近付く程、むせ返るような血の香りが濃厚さを増して行く。地下へ続く道を辿る過程で、会合で居合わせた責任者を名乗る肥満も、話を引き伸ばすために代わる代わる話し始めた部下とやらも、既に皆片付けた。金さえ積めば寝返ったかもしれないが、此の件を不問にする温情など、中也は持ち合わせていない。
世界に誇る保安対策と嘯いていた鉄扉を壁ごと薙ぎ倒すと、其の奥に広がるのは、正に地獄絵図の光景其の物だった。
襲撃に耐える為の鉄扉ではなく、化物を中に閉じ込める為の鉄扉だったのか。そこら中で滴り落ちる血溜まりと、其れを喰い散らかした血濡れの狐の所業で、息絶えた世界が、ひたひたと横たわっている。ひとり、返り血ひとつ浴びていない翠が、白く浮いたように佇む奈落だ。
中也の生気を感じ取った狐は、牙を剥き、其の獰猛な爪を剥き出しにして唸る。其れは、怒りで我を忘れ、生きとし生けるもの全てを刈り取ろうと中也に飛びかかった。狐の勢いは其の儘に、中也は飛上り、子猫にするように首根っこを捕まえて、床に叩きつけた。床にめり込みながらも牙を剥き、立ち上がろうとする狐の強靭な脚力を一瞥して、中也は牙先に立ち、鼻を押さえつけて、其の怒りに満ちた目を見つめた。
「目ェ覚ませよ。手前が守るのは、何だ」